素朴な質問をしますが、Microsoft Excelの良いところって、どこでしょう?
たくさんあり、人によって重視するポイントも違いますが、ざっくり重要点をまとめると、
・日本で(世界でも)利用シェアが高く、誰でも(レベル差はあれど)すぐに開けて、使える「共通言語」のような安心感
・汎用ソフトウエアであるにもかかわらず、高度な関数やVBAなどの自動化ツールが標準搭載されていて、幅広い業務に対応できること
ではないでしょうか?
一方、Excelだって打出の小槌(うちでのこづち)ではありません。
ちょっと込み入った仕事に使いこなそうとすると、すぐにいろいろな「お困りごと」が出てきます。
なぜでしょう?
この原因もいろいろありますが、一番大きなポイントは、
「多機能すぎて、使う人のスキルに左右される。すなわち”属人化”してしまう」
ということではないでしょうか。各社それぞれにExcel職人が暗躍し、彼や彼女らが異動/退職で不在になると、あっという間に闇Excelブックで、共有ストレージがうめつくされる…。
多くの企業や事業体がかかえている、このような悩みを軽減する大事なキーワードが、「ルール」です。そして、Excel入力に関する重要なルールが、総務省の公開ホームページにPDFファイルでアップロードされているのをご存じでしょうか?
今回は、この「統計表における機械判読可能なデータの表記方法の統一ルールの策定」(2020年末公開) ※以下「統一ルール」と表記 について詳しく解説します。
なぜ表記方法の統一ルールが公表されたのでしょうか?
発端は、2020年11月に投稿されたこのツィート。「政府統計の総合窓口(e-stat)」で公開する統計資料の表記方法を統一していきましょう、というメッセージです。この発言を受けて、同年12月に総務省から公表されたのが、「統一ルール」PDFです。PDF公開から約1年半を経て、まだ「表記統一」が実現したわけではありませんが、徐々にこのルール表にのっとった資料がふえてきました。
e-statは、「統計の総合窓口」というように、総務省の調査資料ばかりでなく、財務省、経済産業省など、他省庁から発信される統計調査資料も広く網羅しています。ところが、これまでは、各省庁で作られる結果表Excelが、表記方法も体裁もバラバラだったのです。
「せるワザ」でも過去に、「ピボット分析で、国勢調査データを自社マーケティングに徹底活用」といった活用法や、「多くのビジネスパーソンが、ピボットテーブルでつまずく理由:それは【汚れたデータ】にあった。」などで、集計用データ・クリーニングの重要性をたびたび訴えてきました。
各社/各部署での業務がより複雑化し、これまでより高度な分析が必要となる中、バラバラなExcel素材は、それだけで業務負荷やストレスを増大させてしまいます。
「統一ルール」自体は、e-statで情報公開を予定している各省庁向けのメッセージとして書かれたものですので、企業がルールに従う義務はありません。
しかし、内容は民間企業にとっても有用ですので、ぜひ一度、5分か10分仕事の手をとめて、原文を通読してみることをおすすめします。
とくに、“Excelちょっと苦手な人”のデスク周りには、よく目につくように拡大コピーした掲示を貼り出しておきたいくらいです(ただ、社内バトルにならない程度に、穏便に啓発をお願いしますね)。
「統一ルール」の中でも、特に重要と思われる項目を、以下に(「統一ルール」資料から事例画像を引用して)ご紹介します。
今すぐ、ルール通りにそろえたいExcel入力形式
その他にも、PDFでは全編22ページにわたり詳細にルール策定を行っていますが、上記にあげた事例だけでも、「修正前」にあげられている”ダメなExcel”資料を、仕事で見たことはありませんか?
このようなことが起こるのは、決して各省庁のお役人方に、悪気があってのことではありません。不特定多数のユーザーへ、すこしでも内容を正確に理解してもらおうと、表現方法に工夫をこらした結果、逆に集計・分析の時にエラーが出てしまう残念リポートとなってしまったわけです。
ちなみに、お役所様とて全知全能の神ではなく、たとえばルール集「数式を使⽤している場合は、数値データに修正しているか」のように、賛否が割れる議論も含まれています(Excelブック上は、数式を使用している場合「数式のママ」の方が、後々のトレサビリティが楽ですよね?)。
しかし、ご自身の業務用Excel資料を作成する時も、可能なかぎり、この統一ルールに沿って入力していくことをおすすめします。もし、「なぜこのような入力方法にしたの?」という問い合わせを受けても「省庁標準ルールにのっとっています」と回答できるのは、心強いですよね。それに、やはり個人的な思い入れよりも、ユーザー多数の意見が集約されてまとまった「統一ルール集」の指針には、納得できる部分が多数あります。
まとめ
「ためるExcel」資料づくりを意識して、「共通ルール」を活用しましょう
国際言語としての英語のように、全世界共通ソフトウェアExcelを、みな同じように使っているのに、なぜ職場では、時に混乱がおきるのでしょうか?
最大の理由は、Excelの多機能性にあります。ユーザーや案件によって、使い方をいろいろ変えてしまうために、属人ファイルが量産され、闇ブックの山となるのです。
この事態をすこしでもよくするためには、Excelのつかい道を、大きくわけて「みせるExcel」と「ためるExcel」に分ける必要があるでしょう。
「みせるExcel」とは、「報告書、プレゼンシートに貼る」、「不特定多数の第三者に配る」Excelブックのことです。
「ためるExcel」とは、データやノウハウ、業績などの重要情報を蓄積(ちくせき)し、Excel自体や、他のデータベースソフト・Webツールを用いて解析する資料のことです。
e-stat公開データには、「ためるExcel」典型資料なのに、Web公開して不特定多数のダウンロードを受け付けるため、「みせるExcel」的な”セル結合”や”注釈”を使用したものがあります。その結果、「汚れたデータ」が、多く公開されてしまっているのです。
お役所だけでなく、一般企業や個人事業主のオフィスでも、これから強く意識すべきことは、「ためるExcel」づくりです。
「ためるExcel」をキレイに用意できていれば、あとからその一部(全部)をデザイン加工して、「みせるExcel」に転用することは簡単です。しかし、はじめから「みせるExcel」デザインをほどこしてしまった「ためるExcel」資料を、アーカイブしてはいけません。データベースにもASPサービスにも取り込めず、闇ブック化してしまう可能性が高いからです。
キレイな「ためるExcel」資料を作るため、入力方法はぜひ、「共通ルール」にそって整理してください。読者の皆さんの職場や関係先から、”セル結合大好きな人”が、早くいなくなってくれることを祈ります!