物価高が、いろいろな業種に波及しています。
消費者としてスーパーマーケットへ行くと、なじみの商品がずいぶん値上がりしていることに、驚かされます。
「原材料費や仕入原価が大幅にあがった」とか、「こんな市況だから、逆に特売でシェアを拡大しよう」とか、なにか販売する仕事であれば、むずかしい価格変更に直面する場面もふえるかもしれません。
そのような時、なにをたよりに価格決定していますか?
経験則?
それも大切なノウハウですが、それだけで社長決裁をもらうのは、厳しいかもしれません。
この記事では、過去の経験則などを数値化するための、データテーブル機能について説明します。
データテーブルで、大小さまざまな値を一気に”代入”
データテーブルとは、同一の数式へ、いろいろな値を代入して、代入値に応じた計算結果を求める一覧表のことです。
たとえば、以下に「単価1000円」で「月平均5000個」を売り上げる商品の、数量が変化した場合の売上金額を一覧する試算表を作成してみます。
求めたい数値は、売上=単価✖️数量 の一覧となりますので、作成する表のヘッダ部分へ計算式を入力した上で、表を作成したい範囲をドラッグ→[データ]→[What-If分析]→[データテーブル…]の順に選択します。
今回は、「数量」を変化させる試算表を作成したいので、変数となる「数量」を[列の代入セル:]に指定して[OK]とすると、単価は1000円のままで、数量のみ4,000個から6,000個まで、500単位で変化させた場合の試算表が完成します。
このように、ひとつのデータを変化させて作成するデータテーブルを、「単入力テーブル」といいます。ただし、この計算作業をこなすだけであれば、単価を固定し、数量を相対参照させる計算式をオートフィルで複製すれば、簡単に同じ結果が得られますね。
データテーブルが本当に便利になるのは、2つのデータを変化させる「複入力テーブル」を作成した場合です。
単価、数量ともに変化させて、価格変動の影響をシミュレーション
今度は、数量にくわえて、単価も変化させる試算表を作成してみましょう。
[列の代入セル:]に数量を、[行の代入セル:]に単価を代入するデータテーブルとします。
単価✖️数量の試算表が一発の操作で完成しました。
これが何に役立つのでしょうか?
おそらく、なにかの値付けやキャンペーン施策担当をしたことがある人でしたら、ピンときますよね。
よく「値下げの効果」をシミュレーションするのに使います。
たとえば、通常単価1200円で月平均5000個を売り上げる商品を、特売で1000円にした場合、売上数量が5000個のままで同じだったら、売上金額としては1,000,000円分「値引き損」ということになってしまいます。
天候や競合状況などはいったん考慮せず、単価を2割値引きする場合、販売数量を2割(以上)つみ増しできる計画になってはじめて、特売キャンペーンがしかけられます。
このシミュレーションを、条件もいろいろ変化させながら、簡単に試算表として可視化できるのが、複入力テーブルの便利なところです。
値上げのシミュレーションも、結局は単価✖️数量の問題
ディスカウント・セールスになれた日本市場の売り手であれば、キャンペーンや特売に関するノウハウは、いろいろ過去に手に入れてきたかもしれません。
しかし、現在の市況は、数年前までとは大きく異なります。仕入れ原価高騰、光熱費や人件費アップなどの外的要因が多く、「値上げ判断」をせまられる企業がふえているのです。
「ウチは商品力に絶対の自信があるので、価格を2倍や3倍につり上げたところで、客ははなれない!」と考える経営者の方は、どうぞそのまま値上げしてください!
しかし、多くの場合、過去の少ない経験値をもとに、「どこまでの値上げであれば、顧客ばなれが進まずにすむか」という、むずかしい値上げ判断を迫られるのではないでしょうか。
その時にも、Excelのデータテーブル(複入力テーブル)によるシミュレーションが役立つのです。
なぜなら、値上げの問題も、結局の判断基準は単価✖️数量の問題ですから。
たとえば、過去の「特売から通常価格にもどった月」の販売数量について、「価格1割増で販売数量2割減」という経験則があったとします。それをこの複入力テーブルにあてはめてみます。
いま「単価1000円で月平均5000個」販売されている商品が、「価格1割増で販売数量1割減」であれば、ごくわずかな減収幅ですむのですが、「価格1割増で販売数量2割減」だったとしたら?
値上げによる減収額は1割以上(約12%)になります。この減収に当社・当店は耐えられるのか?
もちろん、期間限定の特売であれば、「買いだめ後の反動減」があったりするので、ほかのさまざまな変動要素も加味しなければ、マーケティング上「正解に近い」判断はできません。
それでも、モノの販売価格をきめる基本は、値下げであれ、値上げであれ「単価と販売数量との関係をみる」ことなので、Excelの複入力テーブルがシミュレーションにとても役立ちますよ。
まとめ
複入力のデータテーブルは、マーケティング上の課題解決に効果的!
「2変数の試算表を作成」という意味では、「単価✖️販売数量」の組み合わせばかりでなく、「価格と製造原価の関係から利益率を最大化」という仮説であったり、「お店の混雑具合とスタッフ数の関係」といった仮説を立てたりすることにも応用可能です。
いずれにせよ、マーケティング上の課題を検討する上で必要な基礎データを、Excelで簡単に入手できるんだということがご理解いただけたでしょうか? (しかも、計算ミスのリスクをかかえながらオートフィルで数式をコピーするのではなく、”代入”の一操作で!)
実務上、Excelブックが教えてくれることの多くはまだ「机上の空論」かもしれませんが、思考の前提条件をみちびき出すためには、データテーブルはとても便利な機能です。
ぜひ、ご自身の実務内容にあわせて、値上げや値下げにかぎらず、さまざまなシミュレーションの”タタキ台”に複入力テーブルを使ってみてください。