未来予測、していますか?
株式投資をしている人なら、投資先(投資予定先)の未来業績予想をすることは重要です。投資先の「現在」の情報だけでは、取得した(取得予定の)株が値上がりするか、値下がりするか、判断できないからです。
業績予想を立てることは、なにも株を買うときばかりではなく、普段の仕事でも必要になることがあります。とくにここ数年は経済環境が不安定なので、大口仕入元や販売先の業績変化を知っておく必要が出てきたケースなども多いのではないでしょうか?
そのような時に活用するのが、ExcelのFORECAST関数。この記事では、FORECAST関数の基本的な構文や使い方、その精度の高め方を、具体的に見てみましょう。
FORECAST関数の意味と構文は?
forecastという英単語(動詞)が「〜を予想する」という意味であることからもわかるように、FORECAST関数は、現在すでに明らかになっている事実から、未来の数値を試算するために使う関数です。FORECAST関数の中にもいくつもの使い分けがありますが、代表的なものが
(1)FORECAST.LINEAR関数 と、
(2)FORECAST.ETS関数 です。
(1)FORECAST.LINEAR関数:
もっとも基本的な統計分析手法である「単回帰分析」で、今わかっている事実の延長線 上にある未来の予測数値を試算するための関数です。
[構文] FORECAST.LINEAR(x, 既知の y, 既知の x)
x:予測する従属変数の値に対する独立変数の値を、数値で示します(必須)
既知のy:既知の従属変数の値が入力されているセル範囲または配列を指定(必須)
既知のx:既知の独立変数の値が入力されているセル範囲または配列を指定(必須)
※構文はMicrosoftサポートページより転記。
(2)FORECAST.ETS関数:
統計分析手法の1つ、指数平滑法を利用して季節変動値のある過去実績データから将来の値を予測する関数です。
[構文] FORECAST.ETS(目標期日, 値, タイムライン, [季節性], [データ コンプリート], [集計])
目標期日:予測する従属変数の値に対する独立変数の値を、数値で示します(必須)
値:履歴値で、次のポイントを予測する値です(必須)
タイムライン:数値データの独立した配列または範囲を指定(必須)
[季節性]:省略可能。規定値は1、季節パターンの長さに正の整数を使用
[データ コンプリート]:省略可能、連続データに欠損があった場合に、推定値を使用
[集計]:省略可能、集計方法の指定、規定値0はAVERAGE、その他SUM、COUNTなど
※構文はMicrosoftサポートページより転記。
(1)と(2)の使い分けは、ひじょうに大まかに言えば
「季節変動がない、一直線な過去統計データを用いる場合には(1)を使用」「季節変動が大きい過去統計データを使って、季節変動込みの未来予測を立てる場合には(2)を使用」
ということになります。
証券会社が公開する企業業績データから、FORECAST関数で未来業績予測
それでは、実際に、FORECAST関数を用いて、Excelがはじき出す未来の数値を見てみましょう。多くの証券会社で、投資判断資料として会員向けに公開している株式会社QUICKの上場企業データより、イオンとニトリホールディングスの、過去3年分の「売上高・営業収益(単位:百万円)」と「営業利益(単位:百万円)」を抜き出してみましょう。
これは、1年間の年度末本決算数字で季節変動要素はないので、FORECAST.LINEAR関数で、2022年2月末以降未来3年間の予測値を出してみましょう。
まず、イオン。
過去3年、未来3年の売上高、営業利益率をグラフ化すると、こうなります。
続いて、同じことをニトリで見てみると、こうなります。
おおお〜!(悲鳴) 庶民の味方、お値段以上ニトリは、赤字まっしぐらで倒産してしまうのでしょうか!? いえ、大丈夫です。日本経済新聞でも「ニトリHDの2022年2月期、純利益7%増・予想平均上回る」との予測記事を公開しています。
では、Excelはなぜこのような予測値をたたき出してしまったのでしょうか?
Excelに罪はありません。単に標本データが少なすぎ、特殊すぎたことに尽きるのです。2020年2月といえば、前年秋に消費増税があったばかりの期。2021年2月期は、もちろん1年間にわたってコロナ禍の影響を受けた決算年度です。一部商品の自主回収に伴う費用の増加なども、特別損失に加えていたようですよ。
標本数の違いによる予測精度の高まりについて見てみましょう
それでは、ここからは「SUMIFSクロス集計」記事に登場した、都内在住Sさんのリアル食費データを標本として、FORECAST関数の精度をシミュレーションしてみましょう。
クロス集計による食費分析で、すっかり「飲み過ぎ!」疑惑をかけられたSさん。奥さんに正しい理解を求めるため、2020年ばかりでなく、2019年にまでさかのぼって、かかった食費を全て洗い出しました。
「お正月はつい食べすぎる」など、月ごとの食費には季節変動がつきものなので、FORECAST.ETS関数を用いて、2021年1-3月のExcel予測値と、実績数値を比べました。実績数値は、もちろんこの分析のために買い惜しみをしたとか、断食をしたとか、調整・ガマンのたぐいは一切ありません。FORECAST1は、2020年の12ヶ月間を標本としたもの、FORECAST2は、2019年から2020年までの24ヶ月間を標本として予測値を出したものです。
(2021年2月分のように)例外値が全く無いわけではないものの、他の期間で区切ってみても、およそ「過去12ヶ月間」で予測値を出すよりも、「過去24ヶ月間」で試算してみた方が、事後検証した結果、実績数値に近い予測値が出せていたようです。
「な? 短期的な見方で人を呑ん兵衛扱いするもんじゃないよ」
Sさんの導き出したこの結論は正しいとはいえませんが、少なくともFORECAST関数も統計解析の一種ですから、「元になる標本は多ければ多いほど、予測値の信ぴょう性が増す」ということだけはいえそうです。
まとめ
FORECAST関数は、簡単に未来予測ができる便利な関数。ただし、標本が少なすぎると、誤った判断につながる恐れがあります。正確に予測を立てるため、1件でも多くの標本を集めましょう
これから起こりうることが、Excelの関数ひとつで推測できてしまう、というのはとても便利な機能です。ただし、万能ではありませんので、できるだけ、ご自身で予測値の精度を上げる努力をしましょう。
たとえば、企業業績予想についても、一般的に証券会社が提供している過去3年分程度では大きく狂う可能性のあることが、「ニトリ」事例でお分かりいただけると思います。
しかも、証券会社の公開情報は株式上場企業分のみに限ります。株式非上場の取引先などについて調べるなら(資本金5億円以上の会社であれば)、決算公告への掲載が義務づけられていますので、そこから情報を得ることも可能です。
予測に使用する標本に特殊要因があるかどうかは一概に決められないので、( )年分データがあれば絶対安心、とは言えません。ただ、標本が多ければ多いほど、異常値が薄められて精度の高い未来予測につながることは間違いありません。
業績予想、未来予測をする必要がある場合は、「探偵になった気分」で、少し遠い昔までさかのぼった標本を集めてみてください。そうすることで「あなただけが知ることができる正しい未来図」が見えてくるようになるのです。